私の負けです>美少女
「父ちゃん、きょうは何の愚痴ですか」
「いやあ、愚痴というか、世間にすみません、という感じなんですけどね」
「聴くだけなら、聴きますよ」
「うん……私は、『美少女』ということばが大嫌いなのね」
「理由は?」
「論理的な理由はない。ただ、使いたくないんだよ。それが……」
「何かあったんですね」
「最近、『日本国語大辞典』(初版)を、やけで買ったんですね」
「その話は聴いたような気がしますが」
「それで、ふと思い立って、『美少女』ということばがあるかどうか調べてみたら、『浮世草子』に出てくる、というのね」
「『浮世草子』ってなんですか」
「江戸時代に流行った、通俗小説で、代表的なものは『好色一代男』とか、そういうの」
「ぜんぜん古いじゃないですか」
「そうなんだよ……。無理を言って、『少女ヒーロー読本』のタイトルを変えなかったのが恥ずかしい」
「まあ、ひとつ単語を覚えたと思えばいいじゃないですか」
「それでも、使うのには抵抗があるけどね」
「そこが父ちゃんの情けない自意識というやつですよ」