採用
それは私も、もの書きである以上、原稿が採用されることは何よりもうれしいのですが――。
ほら、もう嘘をついている。一番うれしいのは、正直言って、印税が入ったときです。それはねえ……私は職業として小説を書く、と決めて三十年やってきたんですから、商売繁盛万々歳です。
それとは別に、人生で一番、うれしかった「採用」があって、何かと言えば、ラジオの深夜放送への、葉書の採用です。
糸居五郎、というDJをご存じでしょうか。バンドで皿を回しているDJではなく、ディスクジョッキー、つまりラジオのパーソナリティーということですが、その、日本での草分けとして、偉大な、『オールナイトニッポン』の伝説のDJです。
書いている内に、この話は前に書いたような気がしてきましたが、まあご勘弁下さい。とにかく、その糸居五郎さんの末期に、私は寝たふりをして、布団の中で『オールナイトニッポン』を聴いていたのですが、いつの間にか眠ってしまいました。
――人生には、不思議な瞬間が何度かあるものですが、眠っていた私が、ふっ、と目を醒ますと、4時頃になっていたと思います。『オールナイトニッポン』の、その頃で言う2部ですね。どうして眠ってしまったのか後悔しながら、耳を傾けると、私は全身の血が逆流しました。
(これは私の書いた葉書だ!)
そうなんです。たまたま目が醒めたら、たまたま糸居さんが私の葉書を、読んでくれていたのです。
葉書の内容もしっかり覚えていますが、言うほどのことではありません。とにかく、40年経ったいまでも、あの時間は忘れられません。
そのときにリクエストしたのは、「悪魔の呪文」という海外のロックでした。