ちょっと息抜きに、TV「美夕」を見ていました。私の目の前の棚には、「刑事コロンボ」のコンプリートと「美夕」のOVAとTV版、「ウルトラQ」の総天然色版、「lain」のブルーレイ、ももクロのCSで録ったライヴなどがあって、かなりヘビーローテーションで回しています。
TVの「美夕」については、いろいろとありましたが、声優陣の豪華なことには、誰も異論はない、と思います。野沢那智さんがおいでになったときには、名だたる声優陣が「まさか、野沢さんが?!」と色めき立ったのですが、ほかにも、大塚明夫さん、水谷優子さん、千葉繁さん、島本須美さん、島津冴子さん、田中秀幸さん、三石琴乃さん、速水奨さん……いや、一スレッドでは上げきれない豪華なキャスティングでした。
私は、アフレコ現場には「うつぼ舟」から入ったのですが、それでなくてもスタッフの一員として、見苦しい所は見せないよう、過剰な程にかしこまっていましたので、サインなんてもらえるわけがなかったのですが、もし、ひとり、サインをもらえるのなら、「人魚の夢」の麻生美代子さん(つまり「サザエさん」のフネさん)にいただきたい、と後で思いました。そんな脚本家がいるもんですか(笑)。でも、心から感動したんです。
「人魚の夢」は、私が書く予約をかけていたもので、監督から二、三のポイントをうかがって、初稿で通った回ですが、TV「美夕」の中でも好評な回であり、実際、よく出来ていたのですが、実はこの頃、私の脚本回が現場、特に美術スタッフに負担をかけ過ぎる、という問題が起きていて、反省したもので、できるだけ背景を透過光で飛ばしたり(脚本には、「黄昏の光で窓の外が見えない」などと書いてあります)、あまり動きをつけないで、セリフのやりとりでつないだりしたのですが、私が尊敬する、別役実の舞台劇を意識して書いた長台詞を、麻生さんは、舞台を彷彿とさせる見事な名演で完成させて下さいました。これこそ脚本家冥利に尽きる、というものです。
そして、今後TV「美夕」について触れるときは、何度か言うと思いますが、その名演を受けて立った長沢美樹さんも、すばらしい役者です。
自分がスタッフだった、という立場を離れると、絵コンテ・演出の妙もあります。どこまでが絵コンテでどこまでが演出なのか、私は知りませんが、水族館と喫茶店を重ねるアイディアは、脚本にはないものです。そう、そういうことが起きると、アニメはほんとうに、面白くなりますね。
いま思い出したんですが、この回について、平野監督は、まったく違うアイディアを持っておられたのですが、私にそれを押しつけることなく、「コミックスでは、別の話になるけど、いい?」ときかれました。もちろん嫌も応もないのですが、いささか暴れ気味だった私の脚本を尊重して下さるのには、いまも心から感謝をしています。