「夏と少年の短篇」片岡義男
「むうん」
「きょうは、なんの愚痴ですか。ブースカです」
「いや、それがね、片岡義男の本が、急に読みたくなったのよ」
「片岡義男」
「そう」
「面白いの?」
「とても」
「あなたは、何冊か持っていらっしゃるのでしょう」
「持っている、と思っていたんだ」
「ないの?」
「ほとんど、ないね」
「だったらあなたは、古本を買わなければならないのね」
「片岡義男の古本は、コンディションが悪いものが多くてね」
「でも、あなたは買うわ」
「どうして」
「それはね……ええい、なんですか、この会話は」
「いや失敬。片岡義男を真似てみました」
「全然、似てませんよ」
「まあ、たまにはいいじゃないの。そういうわけで、片岡義男の本が10冊ぐらいあったと思うんだけど、いま、2冊しか見つからないんだよ」
「古本で探したらいかがですか」
「あるにはあるんだけど、コンディションが悪……これは、いま言ったね」
「言いましたね」
「保存状態が悪いのには理由があってさ。この人も筆が速いので、町場の古本屋で、「西村京太郎、山村美紗、赤川次郎、片岡義男の本は買取致しません」、と注意書きが張り出されていたんだよ。だから、古本屋にはなかなかない。特にエッセイが面白いんだけど、それもない」
「残念ですね」
「残念というか、軽い憤りを感じています」
「どうにかならないんですか」
「Kindle版での復刻が進んでいるらしいんだけど、高いんだよねえ……今月は、ブルーレイレコーダーが壊れて、買い直したから、当分はお金が使えないんだよ」
「それは、言いわけです」
「また厳しいことを」
「ほんとうに欲しかったら、買うでしょ」
「いや、ほんっっっとうに、お金がないんだってば」
「だったら父ちゃんは、記憶で再現するしかありませんね」
「やっぱり」